『濁っちまうぜ』
執筆:永友聖也(キャプテンストライダム)

高校時代、僕はその名も『哲学研究会』というサークルの部長をつとめていた。
何ともカタい名前のサークルではあるが、僕は従来哲学という言葉の持つ地味なイメージを払拭するべく、部長の権限を活かして通常の哲学研究の枠にとらわれない色々な活動を行った。
具体的にどんな事をしていたかと言うと、地元の都城市に伝わる徳川埋蔵金伝説を独自に調査したり(残念ながら発見ならず)、学校から支給される活動費で丸二日かけて本格インドカレーを作ったり(一応ちゃんと予算申請して承認を貰ったので使い込みではありません)といった斬新な活動ばかりだった。
ちなみに僕が部長になった時部員は僕一人だったため、満場一致で僕が部長に選出されたものだ。
そんな様々な活動の中でも特に印象的だったのが、もう時効だと思うので書いてしまうのだがズバリ『どぶろく作り』だ。
どぶろく。炊いた米と米麹と水を使って作る自家製の濁り酒である。
当然哲学研究の一環であるので顧問の先生も協力を惜しまず、研究は先生の部屋を使って行う事になった。
色々調べた結果どぶろく作りには寒い時期が適しているという事だったので季節は冬、2月上旬の雪のチラつく日を選んで研究はスタートした。
小振りなサイズの青のポリバケツに残りご飯、米麹、水などどぶろくの素になる材料を仕込んで、僕は新たな研究の一歩に胸を膨らませて家路についた。
それからというもの放課後になると先生の部屋を訪れては青いポリバケツの蓋を覗き込んで様子を観察し、静かに中の液体を撹拌してはニヤリと微笑む毎日だった。
観察日記もつけていた。ちなみに当時の記述を見てみると、『2月14日 ヨーグルトの様な匂いがして来た。表面に、ブクブクと泡が浮かんでいる。菌が生きている証拠だろう。』とある。
世間はバレンタインだと言うのに実にストイックな部長ぶりである。
そして更に一週間程が過ぎ、ポリバケツの中の液体が充分に白濁して芳醇な香りを放ちはじめたある日、事件は起こった。
いつものように鼻歌混じりで先生の部屋を訪れ、かわいいかわいいどぶろくちゃんの御機嫌をうかがおうとポリバケツの蓋を外してみると何と!バケツの中味が空っぽになっているでは無いか。
僕は半ばパニックになって顧問の先生に『大変です!バケツが空になっています!』
と報告すると、先生は事も無げに『ああ、アレは俺が処分しといた』と言うでは無いか。
研究という名目を越えてなかば親の様な心境で育てていたどぶろくちゃんである。
当然納得できる訳も無く『始末ってどう言う事ですか!ここまで育てたんですよ!』
と問いつめると先生はすました顔で『だってお前、未成年だろ』と言ったものだ。
全くその通りだ。反論の余地は無い。だがそれ以前の問題の様な気もするし、先生の言う『処分』が一体どう言う方法によって行われたのか今となっては確かめようもないが、哲学の道の奥深さを身を持って知った様な気がした。
一杯飲むつもりがちょいと一杯食わされたという話でした。おあとがよろしいようで。
執筆:永友聖也(キャプテンストライダム)
キャプテンストライダムのVOCAL&GUITAR担当。
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